私は、最近は自己啓発の本とラノベばかりを読んでいたのですが、たまには普通に小説を読んでみることにしました。
この本、「存在のすべてを(著者:塩田武士、朝日新聞出版)」を選んだのは、2023年の本屋大賞第3位という帯に惹かれたから。
そして、レビューに「泣ける」って書いている人がいたからです。
さて、早速、読んで私が感じたことを書いていきましょう。
本のあらすじ
平成3年に大和市と横浜市で2児童同時誘拐事件が発生するところから始まります。
身代金目的の誘拐事件。身代金の受け渡しは失敗に終わり、誘拐された子供の一人はすぐに帰ってきたけど、もう一人は事件から3年も経過してから横浜の祖父母の元へ帰宅。
被害当時4歳だった男の子は、7歳になって帰ってきたけど、その間の3年間については何も語らず、空白の3年間として時間が進み、事件は迷宮入りのまま時効を迎えてしまう。
事件に携わった刑事、報道記者、そして事件の関係者が、事件から30年も経った令和3年に、その空白の3年間の真相に近づいていく。
印象に残ったシーン
4歳で誘拐されて7歳になって帰って来るまでの空白の3年間。
その間に何があったのかが語られていくところが、印象に残ったのだけど、私の心に残ったのは、祖母の言葉です。
「産みの親より、育ての親」という言葉。
誘拐されて戻ってくるまでの3年間の間、どのような生活をしていたのかはわからなくても、愛情を持って育てられていたことを感じて、祖母が刑事にこの言葉を話すシーン。
誘拐されていなければ、果たしてそのように育っていただろうか。もしかしたら、良い大人と共に過ごすことができ、この子にとって、結果的には良い経験だったと言えるのではないか。そんなことすら考えてしまいました。
親子愛や家族愛について、考えさせられるものがあります。
この本を読んで感じたこと
本のタイトル「存在のすべてを」。
著者の塩田武士先生は、なぜこのタイトルにしたのか。この本を通して、何を伝えたかったのか。その事が特に気になりました。
『存在』とは誰のことなのか。何を指しているのか。
作中を通して写実画の話が出て来ます。見えているものを見えているとおりに。まるで写真のような「絵」の話し。
見ているものは同じでも、表面的にしかとらえきれておらず、見え方は同じでも、その有り様は異なる解釈が出来る。裏側に秘められたものの存在に気付けることは少なく、我々はただ目の前のものや出来事を表面的に観測しているだけなのではないか?
そう問われているような気がしました。
まとめとおすすめポイント
事件は時効を迎えてしまいますが、二人の児童は無事(?)に家族のもとへ戻ります。
空白の3年間のことは、最後に明らかになりますが、一方で、なぜ身代金目的の誘拐事件が起きたのか?なぜ、この二人の児童が狙われたのか?という事は、最後までわかりませんでした。
読んでいるときには、絵画というつながりがあって、犯人と被害者に因果関係があるように思われたのですが、そのあたりのことは書かれていません。
事件を追うというよりも、空白の3年間を守り続けてきた人達の愛情や思いやりが描かれている印象でした。
なので、おすすめポイントも最終話になります。
空白の3年間をどのように過ごしていたのか。本人と周囲の人達の想いや葛藤。そして、30年という月日が過ぎても消えない罪悪感など。
登場人物の心の内を想像するだけで、なんとも言えない、複雑な心境を味わえます。私は泣けませんでしたけどね。
この本「存在のすべてを(著者:塩田武士、朝日新聞出版)」は、読んでいて、いろいろな想像ができて、とても楽しめる本でした。
時間をおいて改めて読んでみたら、違う事を想像して、新たな発見もできそうな、そんな楽しみを感じます。
本当に良い1冊でした。それでは、また。