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未だ、夜明けの星として【第1章-第6話】

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第6話 東京ー大阪間を走破しよう

朝6時に起床の鐘が鳴り、布団を畳み身支度を整える。6時30分に川路広場で点呼。共用部の清掃を分担して行い、7時から朝食、8時30分までに教場に入り、1日の授業や訓練が始まる。
17時30分に授業が終わり、朝と同じように共用部分の清掃。18時30分から夕食。19時から21時までの間に入浴を済ませ、21時30分に点呼。そして、22時に消灯となる。
仮入校期間の1週間に休日は無かったが、入校後は日曜日が定休日となっていた。しかし、定休日であっても、朝と夜の点呼はあるし、食事の時間も入浴する時間も普段と変わらない。違いは授業がないことだけだった。そう。授業はないのだが・・。

最初の休日を控える前日の夜の事だった。珍しいことに、助教の望月が部屋にやってきた。これまで、教官も助教も寮に来たことはなかった。 

「おつかれさまです!」

渡真利が直立して敬礼をする。健一たちも、それに続いて敬礼した。

「お疲れ様。休め!」

望月は部屋の奥まで入り、窓際の壁に寄りかかって話し出した。

「お前たち、明日は入校してから初めての休みだ。うれしいだろう。だが、最初の1か月間は外出禁止だからな。学校の敷地外に出すわけにはいかん。そうなると、お前たち、暇だろ?それでだな、明日は、お前たちの入校祝いにレクリエーションをやるからな。全員参加だ。朝、9時に教場に集合するように」

どうリアクションして良いか迷っていると、高坂が望月に質問した。

「入校祝いのレクリエーションって、何やるんすか」

「バーベキューだ。肉は教官がたっぷり持ってきてくれるし、酒も用意してある。本来、飲酒は20歳からだが、明日は特別に飲んだことがない奴も、全員飲ませてやる。どのくらい飲んだら、自分がどうなるかを知ることができるいい機会だからな。たっぷり用意してあるぞ。どうだ、楽しみだろう」

うぉー!という声が上がる。

「よし、それじゃ、朝9時にジャージで教場集合な」

そう言うと、望月は部屋を出て行った。しばらくすると、隣の部屋からも「うぉー!」という声が聞こえてきた。
警察学校とは、どんなに厳しいところかと思っていたが、こういう楽しみも存在するのだ。
この日は、消灯時間になっても、あちこちの部屋から騒ぐ声がしていた。当然、世話係の先輩から

「うるせぇ!さっさと寝ろー!」

と怒鳴られ、一部のものは、正座でお説教を受けたようだが。
そして、初めての休日。

「おはよう。全員集まってるな。それじゃ、昨日話した通り、今日はお前たちの入校を祝ってやるからな。じゃ、渡真利くん。肉と酒の準備は頼むよ」

「はっ!了解です」

渡真利を含む世話係の先輩たちが、準備のために教場から出ていった。

「それじゃあ、お前たちには、これから、腹を空かせてもらおうかな。誰か、東京から大阪までの距離がわかるやつ、いるか?」

誰も答えようとしない。

「なんだ、知ってるやつはいないのか?大体の距離でいいんだぞ。どうだ?」

おずおずと手を挙げた御子柴が答えた。

「約500キロくらいだったと思います」

「お、いいね。そう。大体500キロくらいだな。それでだ。お前たちには、今日から卒業するまでの期間を使って、東京から大阪までの距離を走ってもらう。ここに記録用紙を用意しておいたから、後で一人一枚持っていけ。毎日、自由時間を使ってコツコツ走ってもいいし、休日にまとめて走っても構わない。走ったら、その距離と時間をこの記録用紙に記録して、毎週月曜日に提出すること。いいな!なぁに、毎日5キロ走れば100日で終わる。4ヶ月もかからないから完走できない奴はいないだろう。卒業まで365日あるし、全員走り切れるはずだ。余裕があるやつは往復してもいいぞ。だが、ごまかすようなことだけはするなよ。走った距離をごまかしたり、走ってもいないのに走ったことにしたら、倍走らせるからな。さて、で、今日のところは、最初の5キロをみんなで走ろうじゃないか。さぁ、川路広場へ移動だ!」

え〜っ!と、あちこちから声が上がる。レクリエーションがバーベキューだけにしては、集合が早いんじゃないか?と誰もが気にしていたが、まさかマラソンとは。

「ほらほらっ!うまい肉とうまい酒が待ってるんだ。いい汗かけば、その後の酒がメチャクチャ美味くなるぞ!」

ジャージで集合させられたのも合点がいった。

「別に時間を競わなくていいから。ジョギング程度でいいし、何なら途中歩いても構わない。この警察学校を卒業するまでに、少しずつ、コツコツと走って、完走できればいいからな。さぁ、やるぞ!」

警察学校の敷地はとても広い。しかし、施設案内図にグラウンドは書かれていなかった。それに、川路広場の中央部分には、訓練以外で立ち入らないように言われている。では、どこを走るのか?それは、敷地を囲う壁の内側にぐるりと設けられた遊歩道のような通路を走るのだった。一周すると約1200mあるという。健一たちは、ゆっくり時間を掛けて4周、約4800mを走り切った。

「いいか。お前たち。このコースがマラソンコースだからな。よく覚えておけよ。それと、このマラソンコースは寮の裏側を走っている。気が付いた奴もいると思うが、女性寮の近くも通っている。が、変な気は起こすなよ。覗いちゃダメ。奇声を発してもダメ。手信号を送るのもダメだからな。おい!高坂。ここの女性に手を出すなよ!」

「なんで俺っすか?」

「お前が一番やりそうな顔してるからな。もう一度言っておくぞ。絶対に手を出すなよ」

「もし手を出したらどうなるんすか?」

「最悪の場合、逮捕だな」

「なんだよ、それ。じゃあ、ここのゴリラみてぇな女、向こうから頼んできても断ってみせるぜ」

「大丈夫だよ。向こうから頼まれることはないぞ。その顔ならな」

その場にいた全員がどっと笑った。

日差しは穏やかで、ところどころに植えられた桜の木の枝には、青々とした葉が風に揺れていた。共に新生活をスタートした同期生。年齢が近く、頼れるお兄さんといった感じの望月助教。面倒見が良さそうな世話係の渡真利。そこに、クーラーボックスを抱えてやってきた藤井教官が加わり、バーベキューが始まった。

(この学校生活は、わりと楽しいかもしれないな)

この日、健一たちは、大いに楽しんだ。酒を飲み、肉を喰らい、まだ、よく知らない同期生同士、互いの過去話で盛り上がった。「宴会芸の一つや二つは身に着けておけ」なんてことを言いながら、真っ赤な顔で下ネタたっぷりの替え歌を渡真利が歌いだすと、服を脱いで、裸で踊りだす奴もいた。

バカ騒ぎ。この一言がぴったりだった。しかし、ここは普通の学校ではなく警察学校である。辛く苦しい訓練は始まったばかり。そして、この時の健一たちはまだ知らない。警察官という職業が命がけの仕事であることを。意外な人物から命を脅かされる事件に巻き込まれようとしているなんて、思いもしなかった。


著者より

第1章はここまで。次回から第2章に入ります。

じつは、第2章では健一の幼馴染であり親友の三島誠くんのことを書くつもりでした。いえ、書くんですけど、ちょっと内容を変更することにしました。というのも、私は高卒で就職し、その後、アルバイトの経験はないんですよね。だから、大学生のことも大学生のアルバイト事情も、経験として書くことができなかったんですよ。
なので、完全に想像で書こうとしたんだけど、知らないものはどうにも書けない。大卒の知り合いに学生時代の話を聞いたことはあるんだけど、その範囲内なんですよねぇ。

そんなわけで、方針変更。

第2章も、引き続き健一くんを中心に書き進めていきます。予定では、警察学校の夏を。第1章が春でしたからね。
今の時点で、まだ第2章を書き始めたばかりなので、またお待たせしちゃいますけど、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。それでは。

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