第2章 ある休日の出来事編
第1話 外出許可
健一たちが警察学校に入校して1ヶ月が過ぎた5月の中旬。それまでは決して許されなかった敷地外への外出が許可された。
ただし、厳しい制限付きでの許可だった。
外出ルールは次のとおり。
外出を許可されたのは8時間。
遠出は無理でも、健一にとって、日野市にある実家まで往復するには十分な時間だ。ホームシックになったわけではないが、健一は実家に帰ってみようと思った。
外出ルールを告げられた夜、健一は、早速、両親に電話した。
「もしもし。母さん。次の日曜日なんだけど、外出許可が出たから午前中にそっちに戻るよ。うん。駅まで迎えに来てくれると助かる。うん。え?晩御飯?いや、門限5時だから晩御飯は無理だよ。え?あぁ、門限があるんだよ。だから、あんまりゆっくりしてられないんだ。うん。じゃあ、11時頃に駅まで迎えに来て。よろしく」
受話器を戻し、電話ボックスから出てきた健一と入れ替わるように高坂が電話ボックスの中に入った。
高坂が受話器を上げ、ポケットから取り出したテレホンカードを挿入口に差し込み、ダイヤルボタンを押す一連の動作を少し離れた場所から観察する。
(俺たち、スマホがない生活にも慣れてきたんだな)
最初の頃は、電話番号をメモした手帳を見ながらダイヤルボタンを押していたのに、最近は手帳を開かなくても指先が自然とボタンをなぞる。電話番号を覚えたというよりも、番号を押す順番を体が覚えたという感じだった。
「ゲンさん、行こうか」
高坂は、あっさりと電話を終えて電話ボックスから出てきた。
「高坂、もう終わったのか?」
健一の問いに高坂は、
「あぁ、あんま話すことねぇからな」
と返した。いったい、誰と何を話したのやら。
「そんなことよりゲンさん、日曜日はどこ行くんだ?やっぱ実家か?」
健一が日野市の実家に帰る事を告げると、高坂は、もうホームシックになったのかとからかってきた。
「別にホームシックとか、そんなんじゃないよ。一回、顔を出しておこうと思っただけだ。そういうお前は日曜日はどうするんだ?帰ろうと思えば帰れるだろ?たしか高坂の実家は所沢だっけ?」
「んな短ぇ時間使って帰ったって、なーんも面白くねぇからなぁ。俺はパチスロでも行って一稼ぎしてくるつもりだよ」
高坂は、学生の頃から授業をサボって地元のパチンコ屋に入り浸っていたらしい。自分がどれだけ不良だったのかという事をちょくちょく自慢げに話していた。
「そうか。じゃあ大勝ちしたら、なんか奢ってくれ」
「おうよ!任せろ!」
そうして日曜日がやってきた。朝の点呼、清掃、朝食を済ませ、健一は、寮の自室でスーツに着替えた。同室の高坂と蒲江もスーツに着替えている。
「そんじゃ、1か月ぶりの娑婆に出ようか」
健一達は連れだって警察学校の正門をくぐり、中野駅方向へと歩き出した。
思わず「娑婆の空気はうまいなぁ」なんて台詞を吐いてしまうのはテレビドラマの影響だろうか。
中野駅で高坂、蒲江と別れ、健一は中央線八王子行電車に乗った。久しぶりに電車に揺られる感覚を懐かしく感じた。
(こんなに揺れる乗り物だったっけ?)
日野駅には、母に伝えた時間よりも早めに到着した。改札を出て迎えに来ているはずの母親の姿を探した。
(まだ来てないのかな?)
駅前のロータリーに駐車中の車は、どれも両親の車ではない。母親らしき人物は、駅前のどこにも見当たらなかった。
スマホを取り出そうとポケットに手を突っ込んで、スマホを持っていない事を思い出す。
(くそ。スマホは取り上げられてたんだった)
健一は周囲を見回し、公衆電話を探した。ロータリーの端に公衆電話を見つけ、歩み寄ろうと1歩踏み出した時、改札に向かって歩く人波の中から健一を呼び止める声が聞こえてきた。
「あれ?健一じゃね?」
声のする方を見ると、そこにいたのは誠だった。
「やっぱ健一じゃん。久しぶりだなぁ。元気にしてんの?なに?今日、休み?」
誠が手を振りながら健一の方へと歩み寄ってきた。
「おぉ、誠かぁ。久しぶりだな。俺、今日は休みで帰ってきたんだよ。誠は何してんの?」
「俺か?俺はこれからバイトだよ。前にも言ったろ。遊ぶ金を稼がなきゃいけないからな」
「相変わらずだな。で、もしかして後ろにいるのは彼女か?」
健一が誠の斜め後ろに立っている美女を見て言うと、誠がニヤッと笑った。
「まぁな。紹介するよ。志乃ちゃん。最近付き合い始めたんだけどさ、メッチャ可愛いだろ」
確かに可愛い。いや、どちらかというと美人だ。身長は170センチくらいあるだろうか。スラリとした手足と華奢な腰。薄く化粧がされた整った顔。グラビア雑誌のモデルだと言われたら信じてしまうくらいに美しい。と見惚れてしまった。
「もう、変な紹介の仕方しないでよ」
誠のやや後ろで小さく会釈しながら、志乃は誠の腕を小突いた。その仕草も見ていて愛らしい。
「こんにちは。私は柏崎志乃です。よろしくね。あなたは誠くんの同級生?どこの大学?」
「いやいや、俺は学生じゃないよ。もう働いてる」
「ふーん。もう働いてるんだ。何してる人?」
「それは・・・」
警察官の心得として、やたらと警察官を名乗ってはいけない。警察組織のことは会社と呼び、自分のことは会社員だと名乗れ!と望月助教が話していた事を思い出し、健一は、普通の会社員だよと答えた。
「何が普通の会社員だよ。志乃ちゃん、こいつ、警察官なんだよ」
誠があっさりとバラしてしまった。
「へー。警察官って凄いね。カッコいいじゃん」
志乃からカッコいいなんて言われては、バラした誠を責められない。
「まぁ、まだ警察学校で勉強中だから現場には出てないけどね。そういや誠はこれからバイトだろ?また今度、ゆっくり話そうや。俺、母さんが迎えに来たから行くよ」
改札前でつま先立ちで中を覗き込んでいる奈々の姿を見つけ、誠と志乃に別れを告げた。
「あぁ。今度、彼女の友達でも紹介してやるよ」
誠はポンポンと健一の肩をたたきながら言うと、志乃とともに改札へと歩き出した。そして、そのまま改札の中へと消えていった。
著者より一言
当時の私は、五島列島から上京してきたばかりの田舎者。
『東京』に来た!ってことで、お上りさんらしく、あっちこっち見て回りたい。
と、思っていたのに、警察学校に入京してしばらくは、『外出禁止』と言われてがっかり・・。
だから、外出が許可されて、初めて遊びに出かけたときは、もう、うれしくて仕方がなかった。
その時のわくわく感や喜びを、この第1話に込めたかったんだけど、ちょっと伝わらないかな?
もっと文章表現能力を身に着けたら、手を加えさせてもらいます。
それでは、次もお楽しみに。では、また。







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