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未だ、夜明けの星として【第1章-第2話】

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第1章 黒鉄健一の警察学校生活スタート編

第2話 仮入校

「みなさん、おはようございます。本職は望月といいます。皆さんが入校した後、助教として皆さんを指導することになります。どうぞよろしく」

望月は簡単な自己紹介の後、隣に立つ教官の藤井と世話係を務める渡真利、他2名を紹介し、仮入校期間中の注意点を説明した。

  • 1.仮入校期間中は、警察学校敷地外への外出を禁ずる
  • 2.在学中は、スマートフォン、タブレットなどの通信機器、及びパソコンの持ち込みを禁ずる
  • 3.規律を遵守し、世話係の指示に従うこと
  • 4.貴重品の管理は自分で厳重に管理すること

健一には、この4つの注意点が特に印象強く、他にも注意点の説明を受けたはずだが、他のことは記憶に薄かった。

「この仮入校の期間は、入校式と入校後の準備のために設けられています。この期間に、皆さんの制服や教材、支給品などの準備を行います。よって、入校を辞退されると品物も私たちの時間や手間も無駄になってしまいます。辞退するなら、早めに申し出てください。では早速ですが、今日はこの後、健康診断と採寸を行います。教場ごとに順番に行っていくので、移動の際にはてきぱきと移動してください」

望月が教壇のわきに立つ渡真利に目配せを送ると、渡真利は教場を出て行った。この日、仮入校した健一たち総勢135名は、4つの教場に別れていた。一斉にというわけにいかないのは当然だ。
しばらくして戻ってきた渡真利が望月に報告する。

「藤井教場は、採寸から始めてくださいとのことです」

「了解。それではみなさん。採寸は道場の方で行いますので、速やかに道場へ移動してください。移動中は静かにお願いします」

この日、健一たちは道場で採寸、体育館で健康診断、教場で誓約書などの作成を行った。
そして夕方。16時を過ぎた頃、自分たちが生活する場となる学生寮へと案内された。学生寮は、教場がある校舎と広場を挟んで反対側に位置している。その一室。
部屋の広さは8帖程度。ほぼ正方形の室内に2段ベッドが4台、ベッドの両脇に縦型ロッカーがそれぞれ置かれていた。室内にあるのはそれだけ。トイレは共同、風呂は大浴場、食事は食堂でということで、部屋は寝るだけの場所だった。

健一は、部屋に入ると自分の出席番号が貼られたロッカーの前に立ち、傍らのベッドを見た。ベッドの上には布団が一組と、いつの間に運び込まれたのか、健一の荷物がベッドの下段に置かれていた。

(このベッドが俺の寝床になるのか)

健一は、スーツの上着をロッカーの中に吊るし、ベッドに腰掛けた。同じ部屋の住人となる他の面々も疲れた表情をしている。緊張していたのは健一だけではなかったのだ。
ベッドが揺れ、軋む音がした。上の段の住人がベッドに上がったようだ。健一は挨拶しておこうと立ち上がり、上の段の住人に声をかけた。

「やぁ。初めまして。俺は黒鉄健一。よろしく」

しかし、上の段に上がった男は、布団に頭を突っ込んで返事も返してこなかった。

(なんだ?具合でも悪いのか?)

健一は、それ以上声をかけるのはやめた。
暫くすると、世話係の渡真利がやってきて、

「よし、お前ら。全員揃っているか?この後の事と明日の予定を伝えるから、メモを取れよ」

渡真利は胸元からメモを取り出し、ゆっくりと話し始めた。

「いいか。この後、18時までロッカーの整理をしろ。持ってきた荷物は全部ロッカーの中にしまえ。入り切らない分は、捨てるか実家に送るかしろ。18時30分からは食堂で晩飯だ。30分しかないから、遅れるんじゃないぞ。晩飯が終わったら、19時から交代で風呂の時間だ。着替えを用意しておけ。それから、食堂と大浴場には先輩達もいるからな。くれぐれも問題は起こすなよ。風呂の後は自由にしてていいが、21時30分に点呼がある。今日のところは見学でいいそうだが、やり方を見ておけよ。そして、消灯は22時。消灯後はトイレ以外で部屋から出るなよ。あと、しっかり寝るように。それから、明日は6時起床だからな。起きたら、布団をビシッと畳んで、さっさと着替えて広場に集合だ。寮服が来るまでは、各自で持ってきたジャージでいいから。で、6時30分に点呼、そのまま清掃。食当(食事当番)はその時間に食堂に行って配膳の準備。食事の時間は、7時から7時30分まで。10分でよそって10分で食べて、残り10分で片付け。のんびり食ってる暇は無いからな。食後は身支度を整えて8時30分に教場に集合だ。分かったか?」

必死にメモを取っていたが追いつかない。

「おい!わかったのか?返事しろよ!」

健一たちは、ペンを走らせながら、

「はい」

と曖昧な返事をした。

「なんだぁ?声が小せぇなぁ。元気よく、でっかい声で返事しろよ!もう一回。わかったか!」

「はい!」

「ばか。今度はうるせぇよ!ちっとは時間を考えろ!」

世話係の渡真利は、耳に手を当てながらもニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。

「よし。みんな、メモ取れたな。それじゃあ、これから、持ち物検査を始めるから、持ってきた荷物を一旦全部ベッドの上に出せ。隠すなよ。あとで持ち込み禁止の物が出てきたら、ただじゃ済まさんからな」

言うと同時に、ポケットから手提げタイプのゴミ袋を出して広げた。
言われた通りにベッドの上に荷物を広げた。着替えとして持ってきた服がほとんどだが、小説や雑誌、新聞、高校の卒業アルバム、洗面道具や電動シェーバー、マグカップ、モバイルバッテリーなど。中にはキャンプで使うような小型のカセットコンロ、調理器具、サバイバルナイフを持ってきていたやつもいた。

「こんなものまで、よく持ってくるよなぁ」

渡真利は、ベッドの上に広げられたものを見ながら、呆れたように言った。だが、意外なことに、それらのものはゴミ袋に入れられることはなかった。
一通りベッドのうえを見た渡真利は、さて、と健一の肩を組んだ。組んだ手は健一のワイシャツの胸ポケットへと伸び、ポケットから頭を出していたスマホが抜き取られ、高々と掲げられた。

「ま、持ち物検査するぞって言われて、持ち込み禁止のものをベッドの上に置くような奴はいないよな。さぁ、全員、スマホを出せ。20歳未満でタバコ持ってる奴はタバコも出して、この袋の中に入れろ!隠すなよ。隠してたのがばれて困ったことになるのはお前らだからな」

スマホを持参していたのは、健一だけではなかった。いや、むしろほとんどの者が所持していた。誰もが、ここは従うしかないと諦め、電源を切って袋に入れる。しかし、素直に従うふりをしていた奴がいた。後でとんでもない事件となるのだが、この時は、まだ誰も気づかなかった。


著者より

1990年(平成2年)当時、携帯電話は存在していませんでした。だから、今は見られない公衆電話や電話ボックスがあちこちに設置されていたわけですが、警察学校内にも3台設置されていたわけです。
私と同じ世代以上の人なら、公衆電話の順番待ちで電話ボックスの外に並ぶ人の列を見た覚えがある人も多いと思います。空港や駅に設置された公衆電話などにも長蛇の列が出来ていたりして、その列に並んで、前の人の長電話に苛ついた記憶もあることでしょう。

携帯電話やタブレットを持つのが当たり前になった昨今、警察学校に入学する生徒も持っていると思います。持ち込み禁止ということはないかもしれませんが、健一くんたちには、あえて持ち込み禁止という設定にさせてもらいました。その方が都合がいいので。どんな都合かは、今後の物語の中で明らかになりますので、それまでお待ちを。

それと、持ち物検査についてですが、誤解がないように伝えておくと、入校時に持ち物検査を実施されたことはありません。ただし、持参できる物量に制限がありました。ロッカーの中と、衣装ケース1箱に収まりきること。その中に納まらず、ベッドの上や室内のどこかに置いておくと、きれいさっぱり失くなります。徹底して整理整頓することを叩き込まれるので、余計なものは持たず、ミニマムな環境になります。それでも1年過ごせるわけなので、余計なものは必要ないということを思い知りました。今では、長年捨てられずに溜め込んだものが多くなってしまいましたが。

さて、次回のお話です。同期生として入る者がいれば、当然、辞めて立去る者もいます。理由は様々ですが、これは仕方がないことです。健一くんの同期生に早くも離脱者が出ることに。

それでは、おたのしみに。

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